渡米して間もないころ、夫の大学の配偶者コミュニティのイングリッシュパートナー制度で、ある女性とペアになった。英会話の練習を目的に週に1回ミーティングをすることになっていた。色々な意味で共通点はほぼゼロ、何か話しても反応があまりなく(聴き取れていない)、話し始めたと思ったらカメラマンの渡辺陽一ばりにゆっくりと、かつヘンな発音で話す東洋の女に、戸惑いしかなかったのだと思う。会話が始まっては終わり始まっては終わり、まるでなかなかエンジンのかからない車のようであったァ。しまいにはお互いの苦痛がヒリヒリと伝わる地獄の45分間に、彼女からのドタキャンが頻発し、わたしも心が折れ、そのミーティングは自然消滅した。あはは
彼女との会話で、1つだけ心に残っていることがある。ある日彼女は言った。「ルイジアナの料理は美味しいんだよ。」「なんで?」「わからない」そしていつものように会話が終わった。でも、その時強烈に、アメリカでもご飯が美味しいところがあるんだと、いつかルイジアナ州に行ってみたいと、渡米後まもない食へのカルチャーショック中に一筋の光を見たのであった。
そしてなんと今回そのルイジアナ最大都市であるニューオーリンズへの旅行が実現したのであーる。うれしい。なぜルイジアナのごはんはおいしいのか?あの時、疑問に思ったことをようやく調べ始めた。(遅い)簡単にまとめるならば、ネイティブアメリカンに統治国であったフランス、スペイン、そして西アフリカ(奴隷制の影響)の食文化が融合しているから、だそうだ。ガンボやジャンバラヤ、これらがルイジアナ代表だとは知らなんだ。今回の旅で感動した食のランキングはどこかで書きたいけれど、まず手始めにニューオーリンズベストオブ脇役となった、付け合わせの“パン”について書こうと思う。
ニューオーリンズでは、何をオーダーしてもどうやら同じパンがついてくるのである。






牡蠣の炭火焼き食べ過ぎなのは置いておいて。どんな料理にも、僕を忘れないでね、とばかりについてくるこのパン。こんなでっかいの食べきれないよ!が第一印象であった。が、食べてみるとフワッとサクッと軽いのである。ガーリックトーストにするとそれはもう美味しくて止まらない。パンが吸いに吸った油の量を気にかける自分がいなくもないが、もうそれはどうでも良くなる美味しさなのであった。
最終日の朝、Jimmy’s J Cafeで朝食をとることにした。旅ごはんももう残すところ一食しかない、とプレッシャーに押しつぶされ、何を血迷ったか、わたしはFried Shrimp Plateを頼んだ。Southern dirty bowlとかShrimp Gritとかニューオーリンズでしか食べられない未知なものが他にあったのに、なぜFried Shrimp Plateにしたのか。新しい味の開拓より失敗の回避を優先した自分をぶん殴った。オーダーした直後から後悔の念が湧き出て仕方なかったのだが、さらにその料理が出てきた時、泣いた。

エッ。もはやプレートじゃない。揚げるザルそのままじゃん。朝ごはんじゃなくておつまみじゃん。貴重なニューオーリンズでの一食をアメリカのどこでも食べられる揚げ物に捧げてしまった、と悔しくて泣けた。しかしここは美食の街、ニューオーリンズである。侮るべからず。エビのフライもポテトフライも衣に混ざった塩胡椒の加減が絶妙であった。そしてそして、このストーカーパン、これがまた、適度なガーリック風味にサクフワっとした食感で、とにかくおいしかったのである。
旅の土産にこれは聞くしかない、と思った。レジにいた店員さんに、このパンはなんの種類?と聞いてみた。「フレンチブレッドだよ」「え?フランスパンってもっとかたいやつだよね?」「いやいや、このソフトなのがフレンチブレッドだよ。」じゃあいつもわたしが食べているあの硬すぎて歯茎に突き刺さるパンはなんと言うのだろうか。(今思えば多分バゲット)新しく和製英語を認識した出来事であった。
これはもう買って帰るしかない、とついでにどこで買えるのかも聞いてみた。ニューオーリンズに2件あるRouse’s Marketというスーパーで買えるとのこと。「Barrone Stの方に行けば、たまにLeidenheimer Baking companyと書いてあるトラックが横に停まっているから、そこで買うといいわ。スーパーのものよりそこのパンが1番いい」と親切に教えてくれた。
結局、そのトラックは見当たらなかったけど(誰か試してみてほしい)そのスーパーでフレンチパンを無事に入手。2本で2、99ドル。すごいこと教えてもらっちゃったァ風に書いているが、多分、というか絶対、アメリカならどこでも買えるただのパンであることは否めない。あはは。でもニューオーリンズでそのおいしさに気がつき、ニューオーリンズで買ったという経験がプライスレス。手荷物からはみ出るフレンチパンにほくほくしながら帰途についたのであった。


つづく(かも)
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