「ジェンジー撮りって知ってる?」と、ハーバード大学のJohn Harvard像の前、慣れた手つきで、自分たちにカメラを向ける。ジェンジー撮りとは、自撮りの際に、自撮り用のカメラではなく、正規のカメラを使うことで、Z世代間で流行っているらしい。感じる老い。そしてMITの観光名所Killian Courtに着くや否や「めっちゃチルだわ〜、チル。」と感想を述べる。チャールズリバーのケンブリッジ側からのボストンの街景色を見れば「ぽいわ、ぽい。ボストンっぽい!」とリアクションをする。さらには「パーソナルカラー的にえんじ色はあんまり合わない気がするんだよね」と、ハーバード生協ではベストオブハーバードパーカー探しに熱が入る。どこぞの女子高生がボストンに降り立ったのかと思いきや、その正体は齢30のおっさん、ツノヤマ(仮名)である。


ツノヤマはわたしの大学水泳部の同期である。ニューヨークでの3ヶ月の研修中に水泳部の先輩と同期である夫とわたしに会いに、ボストンに来てくれたのである。(うれしい)大学時代はきつい練習で酸欠になっていつも青白い顔をしていたのに、久々に会った彼は水を得た魚のように活き活きとしていた。(遅くない?)
Yankee’s Lobsterで待ち合わせをした。ボストン名物、ロブスターロールでお出迎えである。夫とツノヤマでオーダーを済ませ、わたしと息子の待つ席に戻ってきた。「ビールはオーダーしたの?」飲兵衛ツノヤマのことだから、頼んでいるものだと思った。「してない」え?「しなよ、せっかくだし」「いや実は二日酔いでさ、昨日、日本人の集まりがあって、それで飲みすぎた。今日もニューヨークからのバスの4時間、ほぼ寝てた。」ははは、っぽいわ、ツノヤマっぽい。言われてみれば目の下のクマで顔がまるでパンダのようになっていた。

なのに、全力でボストンを楽しんでいた。わたしが、John Harvard像の3つの嘘についてクイズを出せば、像の周りをぐるぐると回って、大げさになんだろー、なんだろー、と少年のように解を探す。彼にはこういうエンターテイナーな一面がある。息子がぐずれば、プゥンと鼻でマリオのジャンプ音を真似て息子を笑わせる。さすが、8歳差の弟がいるだけある。そこら中にいるリスを見れば、リスだぁ!と大声をあげて感動する。日本にも、ニューヨークにもたくさんいると思うんだけどね。そして夜には、0時を回るまで我が家で晩酌(という名の迎酒)をする。仕事も充実しているのだそう。彼は証券マンで、日本の企業がアメリカの企業を買収するのをお手伝いしている、らしい。水泳部での思い出話だけでなく、直近の仕事の目標なども共有してくれた。
人生の夏休みだから、と彼は3ヶ月の滞米期間1日1日を全力で楽しんでいるようだった。今この瞬間に集中しすぎてパスポートを忘れ、帰りの飛行機をドブに捨てるほどである。最後は颯爽とバスに乗って帰って行った。言葉遣いだけでなく、体力も高校生並にあるのだった。最近、夜10:30などに就寝して毎日、明日のために体力を温存しまくっている自分には、眩しすぎるほどのエネルギーを彼はボストンに運んできた。実際にその週末は大快晴、晴れ男だと自称するだけのことはある。
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