Life of T

アメリカ・ボストンでの生活のこと


滞米日記「同じアパートの女の子」

週末に友人家族を家にお招きするのでその買い出しに行ったある日。MITまで息子と2人で向かい、そこから仕事帰りの夫に拾ってもらい日本食スーパーマルイチへ行く、という計画であった。そのためには家からハーバードまでバスに乗り、ハーバードからMITまでは地下鉄レッドラインに乗る必要があった。

バスに乗り込んだ瞬間、なぜかカードリーダの音に息子が過敏に驚き、稀に見るギャン泣きを繰り広げる。夕方の時間帯で人も多く、母はオロオロとパニックに陥る。すると、そんな状況を見かねてか、1人の女性が優先席の1つの椅子をしまい、ベビーカーをそこにセットできるように誘導してくれた。シートを窓に向けるようにベビーカーを収めると、息子の発作もおさまった。「孫がいるのよ」と待ち受けの孫の写真を見せてくれた。8ヶ月だそうだ。「私の孫もこうして外の景色を見ることが好きなの」こうして子連れの状況を理解してくれる人が周りにいることは非常にありがたい。そして「私が足でベビーカーを押さえているからもう大丈夫よ」と言い、編み物を始める。心強し。赤と黒の派手な何かを作っていた。孫にはどのくらいの頻度で会っているのか?何を作っているのか?誰かに贈るのか?聞きたいことがたくさん頭をよぎったけど、それでも口が開かないのがわたしという生き物であーる。だって、耳にイヤホンがささっていたんだモン。しかも編むって英語でなんていうのかもすぐに浮かばなかったんだモン。(正解は、knitでした)(はあ)

バスがハーバードに到着した。その女性は何かを言い残してクールに立ち去った。とりあえず、イトワズソーヘルプフル!サンキューソーマッチ!と伝えておいた。これが私の英語力で伝えられる最大限のお礼である。(小学生)全員が車内からいなくなるのを待って、自分のペースでバスを降りると、小学生くらいの女の子がニコニコしながらこちらをみていた。すぐにわかった。同じアパートにいる子だ。私の友達がよくこの子の写真をインスタグラムにあげている。でも話したことはないので、あなたのこと知ってるわよ風に会釈をし、そのまま通り過ぎる。彼女とそのお父さんは階段を、私はスロープの方へ向かった。そして地下鉄の改札を通り、ホームに入る。すると、またその女の子がニコニコしながらこちらを見ていた。さっき女性に話しかけられなかったリベンジをするなら今だ、今しかない、と心でつぶやく。だがしかしBUT、歩みを進める足が止まらない、止められなーい。またさっきと同じ会釈を再版して通り過ぎてしまったァ。Kendallの駅のエレベーターはこの辺りだったかな、とある程度のところでストローラーを止め、これだから私というイントロバートは困る、はあ、と息子を見ながら嘆き、顔をあげた。そうしたらまた、目の前にあの女の子がいた。(ホラー)

もうこれは、大人として、話しかけない訳にはいかないので、「同じアパートに住んでいるよね?」と開かずの口をついに開放した。その子は、そう、と言った。「私の友達の、友達だよね?」「そう」この子の目的は、私ではなく息子である。私と何を話すでもなく、手をひらひらさせたりして息子の興味をひいている。隣にその子のお父さんがいたので、その女の子と息子を2人きりにしてあげて、私はお父さんに話しかけた。「これから何をしに行くの?」初対面にしては、我ながら、思い切った質問〜。「カヤックをしに行くんだ。もう今週末のLabor Dayでカヤックができなくなるから。」おお〜予想外、聞いてみてよかった。もう夏が終わったね、などと他愛もない話をしてから、日本人へのお決まりの質問、おすすめのジャパニーズレストランの話になった。彼はインド人、チキン以外の肉や魚を食べないベジタリアンだという。アメリカでベジタリアンの方に渾身の日本食レストランをおすすめすることほど難しいことはないと思っている。だって、日本食の肝となるお出汁が食べられない。昆布だしなどもなくはないが、そんな通な日本食レストランは少なくともボストンにはない。(はず)

難しい〜非常に難しい〜と頭の中の組み分け帽子(ハリーポッター)がつぶやく中、反射的に口を出たのは、「つるとんたん」だった。笑 太い麺、うどん、のチェーン店で日本にもあるんだよ、と伝えておいた。咄嗟にブランドを盾にする自分に失望する。でも、あそこなら、ベジタリアンの方でも食べられそうな選択肢があるかもしれない、と思った。本当にあるかはわからない、あることを祈る〜〜。実際、日本食食べたいと思ったらいくところの1つだけど、アメリカに住んでいるなら絶対に聞かれるこの質問、ちゃんと用意しておかなければなと思った瞬間であった。それに、インド料理好きなわたし、聞かれたことに答えることに必死で、おすすめのインド料理やさんを聞き逃すという痛恨のミス。次に会ったら絶対にきこう。

それにしても気分がいい。あのしつこい(笑)女の子のおかげだ。人と話すことはこんなにも刺激的で楽しいことなのに、自分から踏み出すことがあまりできない。自分から陽気に話しかけられるのは、満腹で、心身ともに疲れていなくて、その日の予定でストレスフルなものがなくて、人生に前向きなとき、だけであーる。まあ、それが自分なのだけど。でも、あの女の子みたいに、この人と話したいと思ったら、それを何がなんでも掴みに行く、という心意気は持っておきたいなと思った次第です。



コメントを残す